スポンサーリンク

新型コロナウイルス抗体検査(採血)の結果の評価は『検査対象』と『検査キットの感度と特異度』に注意が必要(陽性率については2020年6月以降の結果待ち)

2020年5月29日

参照: https://mainichi.jp/articles/20200515/k00/00m/040/100000c

2020/5/15に、『2020年5月上旬時点で都内500人に新型コロナウイルス抗体検査を行い、陽性は0.6%』というニュースがありました。ウイルス抗体陽性ということは、おおざっぱに言うと、『過去に1回でもSARS-CoV-2に感染した』ということになるのですが、個人的には、0.6%という値は低すぎると思います。

PCR検査や抗体検査、またその統計については、結果の解釈で気を付けなければならないポイントが2つ(検査対象と検査キットの精度)あります。SARS-CoV-2の検査と統計、また2020年5月時点での結果について、以下に少しまとめてみたいと思います。

スポンサードリンク

突然ですが、『はやり目』の抗原検査は、陽性ならほぼ100%『はやり目』ですが、陰性でも50%が、本当は『はやり目』です

充血のイラスト

急性の感染症で抗原-抗体反応を利用した検査といえば、『はやり目』(流行性角結膜炎 EKC)に対する抗原検査です。涙嚢ぬぐい液を採取し、アデノウイルスがいるか抗原-抗体反応による検査を行います。

片眼が激しく充血して涙やメヤニが大量で、眼科医が診察して『はやり目』(流行性角結膜炎)が疑われる場合、確定診断のために、結膜のうを綿棒でぬぐって『アデノチェック』という抗原検査を行うことがあります( アデノチェック 以外にも、チェックAdクイックチェイサーアデノ眼などいろいろあります。)。ちなみに、検体採取のときに目を綿棒でグリグリするので、痛いです。

参照: https://www.info.pmda.go.jp/downfiles/ivd/PDF/180024_20800AMY10116000_A_DC_04.pdf を少し改変

眼科医なら誰でも知っているこの検査、見映えは妊娠検査薬にそっくりで、検体採取15分後くらいに線が2本で陽性、線が1本で陰性という判定になります。

『抗原検査であるある』なのですが、

抗原検査陽性(線が2本)なら、その人は100%『はやり目』であり、他人に『はやり目』を感染させまくる危険性が高いので、会社や学校は2週間くらい絶対休む

必要があります。しかし、

抗原検査が陰性(線が1本)でも、50%の人が、本当は『はやり目』であり、会社や学校に行くと、他人に『はやり目』を感染させまくる危険性が高い

という事態が発生します。幸い、命に関わる病気ではありませんが、たまに、『はやり目』が眼科医に院内感染しまくることがあり、そうなると、『病棟閉鎖、数週間手術中止』という恐ろしいことになります。

『検査』が『陽性』でも、本当にその病気とは限らないし、『陰性』でも、本当にその病気でないかは否定できないのです。

それでも、上記の検査のように、『検査が陽性ですから、ほぼ100%はやり目です。今すぐ会社を休んでください。診断書をお書きします。』と言うために、検査を行う意味がある検査が存在します。

https://takeganka.exblog.jp/16332150/
アデノウイルスキットについて その1 (547)
2011年 07月 27日

統計には気をつけろ!

参照: https://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2020051590135148.html

ニュースで、『東京都で◯◯検査で△%の人が陽性』と書かれていても、『じゃあ東京都の有病率は△%だ!』とはなりません。

まず、

(1)検査対象は発熱患者なのか、それとも元気な人か?街中を歩いている人か、他の病気で病院を受診した人か?年齢分布は?いつ検体を採取したか?

(2)検査キットの感度と特異度は?

に関する情報がないと、『◯◯検査で△%の人が陽性』を評価することが全くできません。

例えば、2020年1月から5月における東京都のCOVID-19の累積罹患率を知りたければ、

  1. 調査期間は2020年1月から5月、1週間おきくらいに、対象は500人ずつくらいまんべんなく
  2. 東京都の街中を歩いている人(何人かは病院に入院している人も含める、割合には注意が必要)を、適当に強制的につかまえて、採血(拒否権無し)
  3. 抗体検査のキットの感度と特異度が分かっている(感度も特異度も100%近いものが望ましい)

くらいはやってくれないと、『2020年1月から5月までにSARS-CoV-2に感染した人は△%くらい』とは言えません。
もちろん、上のようなことは事実上不可能であり、ウイルスに感染したからといって、抗体ができてずっと血液中に残るとも限らないという問題点もあります。

このような『研究デザインの限界』をふまえた上で、『◯◯検査で△%陽性』というニュースを解釈する必要があります。

以下の記事もお勧めです。

参照: https://wired.jp/2020/05/03/covid-19-is-nothing-like-the-spanish-flu/

2020年5月に東京都の献血500検体のSARS-CoV-2抗体検査で0.6%陽性との研究結果は、それだけではほぼ意味無し

参照: https://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2020051590135148.html

2020/5/15にこんなニュースが発表されましたが、これは『東京都の抗体検査で0.6%陽性』がメインではなく、『2020年6月から1万人規模の抗体検査をするので、みんな注目してね!』というニュースです。 『東京都の抗体検査で0.6%陽性』 の中身としては、

検査の対象が献血の検体(基本的には発熱などしていない健康な人)というのはそこまで悪くはないですし、陰性コントロールとして1999年の検体の用いているのは素晴らしいです。

しかし、検体に、

陽性コントロール(過去に鼻腔ぬぐい液でPCR検査陽性の症例の血液)が無い

のが痛いです。さらに、

抗体検査キットの具体名が公表されていません。

というのが非常にまずいです。検査キット名の公表は必須です。2020年1月前後に初めて発見されたウイルスSARS-CoV-2の抗体検査キットなんて、2020年5月の時点で正確な感度と特異度が分かっているわけがないのですから(さらに、ウイルスが変異したらどうなるかもわかりませんし)、同時に検査して公表すべきです。

税金(AMED)を使っての研究なので、手探りの状態で、何かしらの結果を発表をしなければならないので、批判覚悟でとりあえず、現時点での結果を発表したところだと思われます。(この研究チームに、生物統計学者が入っていることを願います。)

以下の記事では、抗体検査の問題点について、わかりやすく記載されています。

参照: https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/20/05/17/06936/

参照: https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/column/16/100400036/051500009/

一方、上記ニュースとほぼ同じ日に発表された以下のニュースは、研究デザインがしっかりしており、今後の発表が期待されます。

新型コロナウィルスへの血清IgM,IgG抗体の定量的かつ大量測定プロジェクト

個人的には、このプロジェクトに期待しています。

参照: https://mainichi.jp/articles/20200515/k00/00m/040/100000c

『都内500人のSARS-CoV-2抗体検査で陽性0.6%』という題名は、先ほどの厚生労働省の調査と全く同じなのですが、こちらは 「新型コロナウイルス抗体検査機利用者協議会」のプロジェクトの一環として行われている、 東京大先端科学技術研究センターの児玉龍彦名誉教授のチームによる発表です。

抗体検査では、血液中の「抗体」の有無を調べることで、新型コロナの感染歴が分かります。この研究では、

  • 2020年5月1日、5月2日に都内の医療機関で採血した500人の患者の血液を検体とし、
  • YHLO社(世界最大の化学発光試薬の中国企業)製の測定システムを用いて、SARS-CoV-2のIgM抗体とIgG抗体を測定(感度と特異度も一部公表
参照: 東京都の抗体陽性率検査結果について (東京大学 先端科学技術研究センター )

なお、この検査の問題点としては、2020/5/1時点に東大病院を受診している患者であれば、

発熱患者は除外されている

可能性が高いです。多くの総合病院では、建物の入口にサーモグラフィーを設置し、外来患者に発熱が認められた場合は、外来受診を延期し、他の病院の発熱外来を紹介するなどの対応をして、院内感染を防いでいます(2020年04月15日 新型コロナウィルス感染症対応に伴う外来診療について)。今回の研究に用いられた検体は、2020/5/1と5/2の東大病院と慶應大学病院の患者の検体であった可能性が高いと予想されます。そのため、発熱していない患者が、病院で採血検査を受けて、その残余検体を使用して、0.6%という陽性率であった可能性があります。

詳細は以下にあります。まだ暫定結果なので、こちらも今後の発表が期待されます。

参照: https://www.covid19-jma-medical-expert-meeting.jp/topic/1533

2020年4月中旬時点では、都内の約6%以上がSARS-CoV-2抗体陽性と思われます

参照: https://www.asahi.com/articles/ASN4Q7JB6N4QULBJ01C.html

2020年3月下旬にCOVID-19の院内感染が発覚した慶応大学病院では、2020/4/13-2020/4/19に同病院に入院した患者(COVID-19以外での理由で入院)67名にSARS-CoV-2のPCR検査を施行したところ、4名(約6%)が陽性と判定されたとのことです。

PCR検査の感度は高くても70%と言われているので、実際は、約10%が感染していると思われ、またそれ以上の抗体保有者がいると思われます(2020年4月末時点で、都内の15-20%くらいの人はSARS-CoV-2の感染歴を有しているのではと予想します)。

同様に、以下の記事でも、都内の希望者200人にウイルス抗体検査を施行し、一般市民の4.8%、医療従事者の9.1%が陽性(抗体あり)であったとのことです。

参照: https://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2020043090070748.html

抗体検査キットが何か(感度と特異度が知りたいです)は調べられませんでした(たしか、ナビタスクリニックで公表していた記憶があります。)が、感度が100%ではないと思われるので、おそらく、実際は、6%よりも高いと予想されます。

また、興味深いのは、

医療従事者の抗体陽性率が、一般市民より高い傾向にある

ことにあります。このことから、やはり、発熱して新型肺炎を疑って病院に行くと、新型コロナウイルスに感染していなくても、病院で、医療従事者から新型コロナウイルスに感染してしまうリスクは高い(軽症者は病院に行かずに家にいた方がよい)ことが示唆されます。

都内の抗体陽性率については2020年6月頃の結果発表待ちの状態

厚生労働省も、東京大学 先端科学技術研究センターも、引き続き検査を続行して、6月ころに再度発表予定とのことですし、その他の機関からも、続々、PCR検査(唾液を検体とした場合も)や抗体検査の結果が発表されると思われます。新規データが発表されたら、こちらのサイトでも、記載させていただきたいと思います。

その他参考リンク

  https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20200517-00178720/

参照: https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20200517-00178720/

https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/202004/CK2020042002000209.html
<新型コロナ>東京都内の感染者 20~50代が7割 男性が6割 死亡7割、70代以上
2020年4月20日

株式会社Lineが、2020/3/27から3/30までの4日間で、東京都民63,843人を対象としたアンケート調査を行ったところ、7.1%の人が、発熱やひどい咳などの、新型コロナウイルス感染症の少なくとも1つの症状があることが分かりました。

https://www.reuters.com/article/us-health-coronavirus-line/line-survey-finds-7-of-users-in-tokyo-have-at-least-one-coronavirus-symptom-idUSKBN21I0LJ

スポンサーリンク