新型コロナ肺炎の臨床像(感染したらどんな症状、経過となるか)(2020年4月版)
SARS-CoV-2(新型コロナウイルス)感染者と接触したのち、一部の人が潜伏期間(1日-14日:多くは5日から6日)を経て発症します。
発症後の経過は以下のようになると言われています。
以下の2つの総説にわかりやすく記載されていたので、新型コロナウイルス感染症COVID-19の臨床像(SARS-CoV-2に感染するとどのような経過をたどるのか)について、まとめてみたいと思います。
https://note.com/chugaiigaku/n/n8583a93b5a80
総説 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)
中外医学社Online
2020/03/09 14:12
https://m.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_5e49d774c5b64ba297514a2d
更新 2020年02月17日 15時31分 JST
新型コロナウイルス、症状は? 風邪とどう違う? 医師が解説
- 1. SARS-CoV-2に暴露されても感染する人としない人がいる
- 2. SARS-CoV-2に感染した場合、 COVID-19(新型コロナウイルス感染症)を発症する人と発症しない人がいる
- 3. COVID-19を発症した場合、軽症のまま治る人(80%)と、重症化して入院する人(20%)がいる
- 4. COVID-19が重症化して入院した20%のうち、15%が人工呼吸器無しで治癒、5%が重篤化(人工呼吸器装着、血圧低下、多臓器不全)
- 5. 【軽症例】新型コロナウイルス肺炎で入院された方ご本人の記録
- 6. 日本感染症学会ホームページに掲載された症例報告
- 7. 【軽症例と重症例】ファビピラビル使用例を含むCOVID-19肺炎の2症例(杏林大学医学部付属病院)(2020.3.31)
- 8. 【重篤例】COVID-19によるARDSに対してロピナビル・リトナビル配合剤を使用した1例(横浜市立みなと赤十字病院)(2020.3.31)
- 9. 死亡例の具体的な経過の報告は2020年4月3日時点では見当たらず
- 10. 【死亡例】日本における死亡例
- 11. 【死亡例】中国でCOVID-19で死亡した症例の経過
- 12. ダイヤモンド・プリンセス号でSARS-CoV-2のPCR陽性となった無症状または軽症患者の入院生活
- 13. COVID-19肺炎と細菌性肺炎の合併、COVID-19肺炎かつインフルエンザ合併例もある
- 14. 新型コロナウイルス感染症 COVID-19 診療の手引き 第1版(厚生労働省)
SARS-CoV-2に暴露されても感染する人としない人がいる
保菌者(ウイルスですが)と接触後、
- SARS-CoV-2に感染する人
- 感染しない人
がいます。感染する人の割合についてですが、 『アメリカで10名の確定患者の濃厚接触者445 名(range = 1–201 persons per case) を14日間追跡調査したところ、54 名(12%)が何らかの症状悪化を自覚したが、SARS-CoV-2のPCR陽性となったのは2名(0.45%)であった。』という報告があります。2020年3月の世界的な感染拡大のスピードと比べて、特定の患者の濃厚接触者のPCR陽性化する割合が低いことから、無症候性感染者から感染が拡大している可能性があると言われています。
SARS-CoV-2に感染した場合、 COVID-19(新型コロナウイルス感染症)を発症する人と発症しない人がいる
SARS-CoV-2に感染した場合(ウイルスがヒトの体内で増殖した場合)、
- COVID-19を発症する人(咳や熱、全身倦怠感、呼吸困難などを自覚する人)
- COVID-19を発症しない人(無症状、無症候感染)
がいます。潜伏期間は1日~14日、感染5日目での発症が多いとのことです。( リンク1, リンク2)
ダイヤモンド・プリンセス号の乗客をスクリーニングでPCR検査を行ったところ、約17%が陽性であり、そのうちおよそ半数が無症候性感染者であったことから、無症候性感染者もかなりの割合いると考えられます。
また、上図はドイツの報告の図ですが、PCR陽性者と接触した4-5日後(最短2日、最長6日)に、COVID-19を発症していることが分かります。
COVID-19を発症した場合、軽症のまま治る人(80%)と、重症化して入院する人(20%)がいる
発症した場合の重症例の割合(中国での44,672人のデータ)については以下のような報告があります。よくニュースなどで『80%は軽症なので、病院を受診せずに家で寝ていてください。』と言われている根拠です。
- 81%が軽症(肺炎がない、もしくは軽度)
- 14%が重症(呼吸困難、低酸素血症、24~48時間以内に肺炎像が肺面積の50%以上を占める)
- 5%が最重症(呼吸不全、ショック、多臓器不全)であった。このうち2.8%が死亡。
死亡率については、以下の条件により、かなりの幅が出ると思われますが、発症者を分母として場合、3%以上はありそうです。
- 分母をSARS-CoV-2陽性者(PCR陽性かつ無症状の人も含まれる)にするか、COVID-19患者(症状ありの人のみ)にするか
- どれだけの人のPCR検査をするか
- 年齢層の分布(日本やイタリアは高齢者の割合が高い)
- 医療崩壊していないか
COVID-19が重症化して入院した20%のうち、15%が人工呼吸器無しで治癒、5%が重篤化(人工呼吸器装着、血圧低下、多臓器不全)
入院して酸素10L/分でも酸素化が足りない場合は、麻酔薬で眠らせて、筋弛緩薬を投与して気管挿管し、人工呼吸器装着となります。
場合によっては、2020年4月現在は入手困難ですが、倫理委員会を通して、さらに患者(or家族)の同意を得て、アビガン投与などが行われます。(アビガンは錠剤で内服しなければならないので、気管挿管中の投与方法があるのかはわかりません。)
人工呼吸器でも酸素化が足りない場合、65-75歳以下などの特定の条件を満たせば、ECMO(体外式の人工肺)装着となります。症例数を多く経験している施設であれば、救命率70~80%とのことです。(参考:https://dot.asahi.com/dot/2020030200005.html )
人工呼吸器で肺をアシスト、またはECMOで肺を休ませて1週間程度で、自己免疫力により、体内のウイルスを抑えることができれば、それらから離脱し、回復する流れとなります。ただし、激しい肺炎により、どの程度の後遺症(や、5年生存率?)が残るのかについては、まだデータがそろっていません。
また、不幸にも、5%の重篤化患者のうち、2-3%の患者は、人工呼吸器またはECMOを離脱できずに死亡(心停止)となります。
以上が、一般的な臨床経過となります。以下は、具体的な症例の経過について記載します。
【軽症例】新型コロナウイルス肺炎で入院された方ご本人の記録
医学的に『軽症』といっても、病気をほとんどしたことのない一般の人にとっては、たまったものではありません。
https://forbesjapan.com/articles/detail/33415/1/1/1
2020/04/01 18:30
これで「軽症」と言うのか。新型コロナ感染で入院中、渡辺一誠さんの手記
→一部抜粋させて頂き以下に記載します。
- 3/21(土) (発症前日) 新型コロナ感染者と食事(このときに感染した可能性あり。5人で食事をして、うち4人がのちにCOVID-19と診断。)
- 3/22(日) (発症1日目) 発熱にて発症、39.5度
- 朝になると熱が下がり、午後から上がっていくという状態
- 3/27(発症6日目) COVID-19と診断、入院
- 3/28夜 空咳がひどくて眠れない、何かのはずみでゴホゴホしだすと、スッキリするまで止まらない
- 3/29 朝から39.1℃
- まだ症例数が少ないので断定はしづらいが、現状では熱のピークは8〜9日前後とのこと
- その後熱が下がって、数日したら再検査で、陰性なら帰宅できるようです
- 味覚障害あり、食欲無し
- 3/30(月)(発症9日目)熱が下がり始める。少し眠れるようになる。咳は残る
- 4/1(水)(発症11日目)食欲が少し回復
- 順調であれば4/8前後に退院予定
この方は酸素吸入などはしていないので、軽症または中等症となります。まとめると、
- PCR陽性者との食事の翌日に39.5度の発熱で発症。
- 発症6日目にCOVID-19と診断され、入院。乾性咳嗽、味覚障害、食欲低下。
- 発症8日目が熱のピーク(朝から39.1℃)
- 発症11日目に食欲が少し回復
- 治療は保存的加療のみ。発熱による症状改善のためカロナール内服。
となります。
日本感染症学会ホームページに掲載された症例報告
http://www.kansensho.or.jp/modules/topics/index.php?content_id=31#case_reports
日本語で分かりやすいので、ほんの一部を記載します。COVID-19は乾性咳嗽が多いと聞きますが、以下の症例には湿性咳嗽(喀痰が出る咳)の症例もいるようです。
【軽症例と重症例】ファビピラビル使用例を含むCOVID-19肺炎の2症例(杏林大学医学部付属病院)(2020.3.31)
【軽症例】38歳男性(身長 193.7cm、体重 110kg、BMI 29.3 )
- Y-7日(発症1日目) 咽頭違和感
- Y-5日 微熱、倦怠感、頭痛、鼻汁、湿性咳嗽、1日あたり4回程度の下痢
- Y-3日 悪寒、浮動性めまい
- Y-2日 38℃台の発熱。この日に職場同僚がPCR陽性。
- Y-1日 病院を受診。鼻咽腔スワブにてPCR陽性となり、COVID-19肺炎との診断にて
- Y日(発症6日目) 入院。両眼充血、眼脂+。(結膜炎あり)
- Y+2日(発症8日目) SpO2 94%(room air)まで低下。
- 発症11日目 39.2℃が発熱のピーク。酸素投与無く、保存的加療のみで、その後改善。
- 発症12日目 37℃台
- 発症15日目 36℃台
- 発症19 ,20日目 PCR陰性となり、その後、退院。
まとめると以下のようになります。
- 38歳男性
- 職場の同僚から感染、潜伏期間は不明
- 咽頭違和感で発症し、発症3日目に微熱、倦怠感、頭痛、鼻汁、 湿性咳嗽、1日あたり4回程度の下痢
- 発症5日目 38℃台の発熱
- 発症6日目 病院を受診し、PCR陽性。両眼充血+
- 発症8日目 SpO2 94%(room air)まで低下。
- 発症11日目 39.2℃が発熱のピーク。酸素投与無く、保存的加療のみで、その後改善。
- 発症15日目 36℃台
【重症例】64歳男性
- Y-20日 から Y-16日(発症12日前) まで、フィリピンでダイビング旅行。
- Y-4日(発症1日目 ) 微熱、全身倦怠感。
- Y-1日(発症3日目 ) 38℃台の発熱。病院受診し、鼻咽腔スワブにてPCR陽性となり、COVID-19肺炎との診断にて
- Y日(発症4日目) 入院。食欲低下。採血ではリンパ球減少(17.5%)
- 発症6日目 39.5℃。SpO2 94%(room air)。酸素1Lと、ファビピラビル(アビガン)内服開始。
- 発症8日目 37℃台まで低下
- 発症10日目 36℃台まで低下
COVID-19の潜伏期間は14日間までと言われています。フィリピンで感染したかどうかははっきりしません。発症6日目からアビガン内服を開始し、その4日後には36℃台まで低下しています。
また、重症化する症例は、病初期にリンパ球低下、食欲低下がありそうと考察しています。
【重篤例】COVID-19によるARDSに対してロピナビル・リトナビル配合剤を使用した1例(横浜市立みなと赤十字病院)(2020.3.31)
67歳女性
- 既往歴に慢性気管支炎その他
- 発症3日前 PCR陽性の家族と濃厚接触。その後、本人もPCR陽性となるも、無症状。
- 発症1日目 咳嗽と呼吸困難で発症。入院?
- 発症2日目 病院を転院。歩行時のふらつきと咳嗽あり。38℃台の発熱。SpO2 80%(roo air)。COVID-19肺炎と診断。充血無し。LPV/r(ロピナビル・リトナビル配合剤)(カレトラ) に加えて、CTRX(ロセフィン)、LVFX(クラビット)、オセルタミビル(タミフル)開始。
- 発症3日目 ARDSと診断。人工呼吸器装着。
- 発症10日目 CRPがピークアウト(30前後が10前後に低下。)。
- 発症14日目 抜管(人工呼吸器終了)
- 発症15日目 37℃台まで低下
- 発症16日目 36℃台まで低下
こちらは、もともと慢性気管支炎がの既往があり、おそらくSpO2も低かったのだと思われます。PCR陽性の家族と濃厚接触して2日後に、咳嗽と呼吸困難で発症。発症2日目に38℃台で入院。 ロピナビル・リトナビル配合剤(カレトラ)+抗生剤+抗インフルエンザ薬投与を開始するも、発症3日目にARDSになり人工呼吸器装着。発症14日目に抜管。発症16日目に36℃に低下しています。
既往歴があり重症化して人工呼吸器装着となるも、改善した症例でした。
死亡例の具体的な経過の報告は2020年4月3日時点では見当たらず
症例報告では、『〇〇を投与し軽快した〇例』『〇〇投与にて重症化せずに軽快した〇例』『重症化因子の検討』などがどうしても多くなります。死亡例の具体的な経過の報告は、上記では見当たりませんでした。英語や中国語ではあると思いますが、とりあえず、日本語で調べられる範囲では、報道からとなります。
【死亡例】日本における死亡例
2020/4/1現在、日本におけるCOVID-19による死亡者数は57です。(参考:厚生労働省)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200330/amp/k10012357011000.html
こちらの報道内容をまとめると、以下のようになります。
- 70歳男性
- 感染源は不明
- 3/17 全身倦怠感で発症。
- 3/19(発症3日目) 発熱、呼吸困難。
- 3/20(発症4日目) 入院。肺炎と診断。
- 3/23(発症7日目) PCR陽性。
- その後、ECMOを含む治療を行うも
- 3/29(発症13日目) 死亡。
【死亡例】中国でCOVID-19で死亡した症例の経過
こちらの論文は、COVID-19で死亡した患者の肺の針生検(遺族から解剖の同意を得られなかった)を施行し、HE染色とSARS-CoV-2抗体での免疫染色を施行した報告です。
症例は72歳男性
- 既往歴は高血圧と糖尿病
- 発熱と咳嗽で発症
- 発症6日目 咽頭スワブでSARS-CoV-2のPCR陽性で入院。その後、急速に呼吸状態が悪化し
- 発症13日目 人工呼吸器装着
- 発症3週間後 死亡
ダイヤモンド・プリンセス号でSARS-CoV-2のPCR陽性となった無症状または軽症患者の入院生活
ダイヤモンド・プリンセス号の乗客は、ほぼ全員スクリーニング検査として、PCR検査を行っています。2020年4月現在、日本では、COVID-19確定患者の濃厚接触者または重症者のみ、PCR検査を行っているので、元気なPCR陽性者は非常にめずらしい存在です。
https://www.j-cast.com/tv/2020/04/02383558.html
「新型ウイルス」病院ではこんな入院生活――比較的行動自由な陽性患者 濃厚接触者は厳重管理
2020/4/ 2 13:32
COVID-19肺炎と細菌性肺炎の合併、COVID-19肺炎かつインフルエンザ合併例もある
また、死亡例では、SOFAスコアとD-ダイマーが高値という報告もあります。
SOFAスコアとは、 重要臓器の障害度を数値化した指数です。 呼吸器、凝固系、肝機能、心血管系、中枢神経系、腎機能の6項目について、臓器障害の程度を0から4点の5段階で評価します。
2016年に敗血症の定義が変更となりました。→ http://medical.radionikkei.jp/kansenshotoday_pdf/kansenshotoday-160810.pdf
新型コロナウイルス感染症 COVID-19 診療の手引き 第1版(厚生労働省)
新型コロナウイルス感染症 COVID-19 診療の手引き 第1版
(厚生労働省研究班)(2020/3/19掲載)
https://www.mhlw.go.jp/content/000609467.pdf
ウイルスの性質、臨床像、診断、治療、感染防止、生活指導などの現時点でのまとめ
→大きな文字で分かりやすいです。また、中国のガイドラインの日本語訳も、日本医師会のページに掲載されています。
https://www.med.or.jp/doctor/kansen/novel_corona/009082.html
日本医師会
中日友好病院からの情報提供
中国の新型肺炎治療ガイドライン
新型コロナウィルス肺炎診療方案(試行第7版/2020年3月16日修正版)
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