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『新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き・第1版』の概要と解説(2020年4月)

2020年4月7日

2020年4月現在、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について、 信頼性が高く、 日本語でわかりやすくコンパクトに記載されている文章はこちらの診療の手引きとなります。

参照: http://idsc.tokyo-eiken.go.jp/medical/covid-19/

上記のPDFファイルを読んでいただければ十分なのですが、今回、少し解説も加えて、診療の手引きの抜粋を以下に記載させていただきたいと思います。

  1. 病原体・臨床像
  2. 症例定義・診断・届出
  3. 治療
  4. 抗ウイルス薬
  5. 院内感染防止
  6. 退院・生活指導

なお、文献に基づいた日本語の最新情報については、日本呼吸器学会による https://www.jrs.or.jp/uploads/uploads/files/information/20200325v1.220200323.pdf がお勧めです。1週間単位で更新されており、最新版は https://www.jrs.or.jp/modules/information/index.php?content_id=1468 からダウンロードすることができます。

参照: https://www.jrs.or.jp/modules/information/index.php?content_id=1468

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1.病原体・臨床像

ヒトに感染するコロナウイルスは4種 (229EOC43、NL63、HKU1) が知られており、感冒(風邪)の原因の10%~15%を占めていた。2000年以降、

  • 2002 年 中国・広東省に端を発した SARS(重症急性呼吸器症候群):SARS-CoVが原因
  • 2012 年 アラビア半島で MERS(中東呼吸器症候群):MERS-CoV が原因

が流行した。2019 年 12 月から中国・湖北省武漢市で発生した原因不明の肺炎は,新型コロナウイルス (SARS-CoV-2)( 7種類目のヒトに感染するコロナウイルス )が原因であることが判明した。SARS-CoV-2 による感染症を COVID-19(新型コロナウイルス感染症)と呼ぶ。

感染経路・潜伏期・感染可能期間・季節性

  • 飛沫感染が主体と考えられ,接触感染や換気の悪い環境では,咳やくしゃみなどがなくても感染もありえる
  • 無症状病原体保有者からの感染については不明
  • 潜伏期は 1 ~ 14 日間であり,曝露から 5 日程度で発症することが多い(WHO).
  • 発症時から感染性が高い
  • 中国広東省における PCR 検査を用いた検討(14 例)では,咽頭より鼻腔のウイルス量が多く,発症日から 5 日程度持続する.発症から 10 日前後で検出限界以下となった。(リンク

臨床像

多くの症例で発熱(夜に熱が上がる?)、呼吸器症状(咳嗽(空咳が多い?)、咽頭痛、鼻汁、鼻閉など)、頭痛、倦怠感(だるさ)などがみられる。
下痢や嘔吐などの消化器症状の頻度は多くの報告で 10%未満。
結膜炎、味覚障害、嗅覚障害の報告もある。

初期症状はインフルエンザや感冒に似ており,この時期にこれらとCOVID-19 を区別することは困難。

40 歳代までは重症化は少なく、50 歳代から年齢が高くなるに従って致死率も高くなる。

基礎疾患のある患者では,基礎疾患のない患者と比べて明らかに致死率が高い。

血液検査所見

血液検査所見(入院時?)では、白血球数増加、リンパ球数減少、プロトロンビン時間延長、Dダイマー上昇、LDH上昇が、重症化の因子と考えられる(リンク

画像所見

無症状で胸部レントゲン写真が正常でも、胸部CTで肺炎像、特にすりガラス様陰影(GGO)を認めることがある(リンク1, リンク1の日本語解説)。異常所見は下肺野に認めることが多い。

発症から1週~3週間ですりガラス様陰影から浸潤影に変化する。発症14日目頃にピークとなることが多い。

当サイトでも臨床像についてまとめましたので、もしよろしければご覧下さい。

2.症例定義・診断・届出

症例定義

COVID-19患者(確定例)、疑似症患者、無症状病原体保有者、感染症死亡者(疑い)の死体の4つに分類されます。

COVID-19疑い患者の要件と検査の流れ

2020年2月27日に要件が変更され、以下の2つの場合も、状況によってはPCR検査ができるようになりました。

  • 『発熱(37.5℃以上)』かつ『呼吸器症状』かつ『入院を要する肺炎が疑われる』
  • 『医師が総合的に判断した結果、新型コロナウイルス感染症を疑う』

つまり、医師がCOVID-19を疑えば、『インフルエンザ検査』『その他の一般的な呼吸器感染症の病原体の検査』を施行して陰性であれば、『PCR検査の実施について保健所に相談』することができます。2020/3/24に東京オリンピック延期が発表されるまでは、この『保健所に相談』しても、PCR検査を認められなかったのではないかと疑われています。(リンク

病原体診断・届出

発症後5日以内に、鼻咽頭スワブを採取し、提出することが一般的かと思われます。

『発症4日間は自宅安静を』という政府の通達がありますので、『発症後5日以内に採取』というのは、かなり無理があるのではと考えられます。

届出は、最寄りの保健所となります。

3.治療

2020/4/6時点で、保険診療で認可されたCOVID-19の治療薬はありませんが、抗ウイルス薬については後述します。

  • 感染が疑われる患者で,臨床的に肺炎と診断した場合には,病原体診断の結果を待たずにエンピリックに抗菌薬を開始する。
  • 輸液は過剰にならないように注意
  • 必要に応じて酸素吸入を開始
  • ウイルス性肺炎に対するステロイド薬の有効性は不明
  • COVID-19 と確定診断後であっても細菌感染症の合併が疑われる場合には、適切な抗菌薬を投与する。
  • 基礎疾患を含めた注意深い全身管理が重要である.
  • 非侵襲的陽圧人工換気は MERS において治療失敗につながりやすかったこと,SARS において院内感染の原因になったことが知られている。エアロゾル発生リスクのあるネーザルハイフローと併せて,慎重に適応を選び,適切な装着に留意する

気管挿管による人工呼吸における注意点

感染症病床でこれらの治療を実施できない場合には,別の病床,あるいは他医療機関への転院を含めて,管轄保健所と相談する。

  • 気道管理について幅広い経験をもった手技者(救急専門医,集中治療専門医など)をあらかじめ治療チームに含める
  • 気管挿管はエアロゾルが発生する手技であることに留意し,フェイスシールドあるいはゴーグル装着に加えて空気感染予防策(N95 マスク装着)が必要
  • ビデオ喉頭鏡を使用し、迅速導入気管挿管(Rapid sequence induction:RSI)を行う(前酸素化に引き続き,鎮静薬,鎮痛薬および筋弛緩薬をほぼ同時に連続投与し、バッグマスク換気は行わない)
  • COVID-19に対するECMOの稼働は非常に多くの人員を必要とし、予後不良というデータもある。
  • 「日本 COVID-19 対策 ECMOnet」に相談できる体制(専用電話番号はメールアドレスの登録がある関連学会会員に配信されている)が整えられている。慣れていない医師がECMO管理を行おうとする場合は「日本 COVID-19 対策 ECMOnet」に積極的に相談するべきである。(→日本集中治療医学会

4.抗ウイルス薬

2020/4/6時点では,COVID-19 に対する抗ウイルス薬による特異的な治療法はない。また、 SARS-CoV-2 に抗ウイルス活性を有する抗ウイルス薬があったとしても,治療効果を得るにはより早期に投与されることが求められる。以下の薬剤による治療が検討されている.中国では臨床試験が行われているほか、日本国内でも臨床研究が開始された

  • ロピナビル・リトナビル配合剤(商品名カレトラ)(抗HIV薬)
  • ファビピラビル(商品名アビガン)(抗インフルエンザ薬。市場に出回っておらず、自由に使用できず。)
  • シクレソニド(商品名オルベスコ)(気管支喘息治療薬)

「アビガン」(ファビピラビル)の第3相臨床試験(企業治験)

https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/20/04/01/06763/

参照: https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/20/04/01/06763/

第3相臨床試験の用法・用量は、1日目のみ1回1800mg×2回、2日目以降は1回800mg×2回で、最長14日間、経口投与する。この投与量は、COVID-19 に対する抗ウイルス薬による治療の考え方 第 1 版 (2020 年 2 月 26 日)日本感染症学会) に記載されている用法・容量と同様です。

5.院内感染防止

COVID-19 におけるウイルスの伝播経路は,主に唾液や鼻水などの体液およびそれらで汚染された環境への接触や,くしゃみや喀痰など呼吸器飛沫が結膜や呼吸器粘膜に入ることにより感染すると考えられている.したがって,患者の診療ケアにおいては,

  • 標準予防策に加えて,
  • 接触予防策と
  • 飛沫予防策が必要である. 

なお,コロナウイルスはエンベロープをもつ RNA ウイルスであり,熱・乾燥・エタノール・次亜塩素酸ナトリウムに消毒効果が期待できる.

また、患者の診療ケアにあたった医療従事者が業務を終えた後は,14 日間の体調管理(1 日 2 回の体温測定など)を行い,体調に変化があった場合は,すみやかに感染管理担当者に報告する体制を作っておく.

医療従事者のCOVID-19感染予防策については、以下にまとめてみましたので、もしよろしければご覧ください。

6.退院・生活指導

2020 年 2 月 18 日通知では、上記のようになっています。つまり、退院にあたっては,臨床症状の改善に加えて,病原体の消失も確認することになっています。

しかし、2020年4月より、軽症者はホテルへ移動など、今後変更がありえます

→ 新型コロナウイルスの陰性が確認され退院される患者の方々へ (厚生労働省)

参照: https://www.mhlw.go.jp/content/000609163.pdf

以上、 http://idsc.tokyo-eiken.go.jp/assets/diseases/respiratory/ncov/treatmentguid.pdf のPDFファイルの抜粋と、一部を解説追加をさせていただきました。

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