新型コロナウイルス感染症に精神的に負けないためのアドバイス(米国CSTS『医療従事者の健康維持』と『患者の心の健康ケア』)
2020年4月現在、新型コロナウィルス感染症COVID-19がパンデミックとなり、日本では 2020年4月7日 に緊急事態宣言も発令され、患者さん、医療従事者を含む多くの人の不安と恐怖が増強していると思われます。
アメリカ合衆国の軍人保健科学大学Uniformed Services Universityのトラウマティック・ストレス(外傷性ストレス)研究センターCenter for the Study of Traumatic Stressが作成したガイド
が日本語に翻訳され、公開されています。医療従事者だけでなく、すべての人に非常に参考になると思いますので、抜粋し、医療従事者の健康維持について、個人的な解釈(筆者は精神科医ではありません)を記載させていただきたいと思います。
基本的なことばかり書かれているそうですが、
大変な時だからこそ基本を見失わないようこころがけをする
のが大事だそうです。
- 1. コロナウイルスやその他の感染症アウトブレイク中における医療従事者の健康維持
- 2. ストレスの原因(課題)を列挙する
- 3. 課題がある中での、医療従事者の健康維持のための戦略
- 3.1. よく食べて、よく飲んで、よく寝る
- 3.2. 一定時間、仕事から無理やり離れてリラックスする時間を作る
- 3.3. 同僚に自分の話を聞いてもらう、同僚の話を自分が聞いてあげる
- 3.4. 現場ではポジティブな会話でお互いを褒める、院内での苛立ちやその解決方法を共有する
- 3.5. 仕事が忙しくても家族と連絡をとる
- 3.6. 違いを尊重しましょう
- 3.7. 常に(エビデンスレベルの高い)最新情報に触れて自分の知識を更新する
- 3.8. テレビやSNS(twitter, facebookなど)のメディア閲覧、場合によっては電子メールも制限しましょう
- 3.9. 自分が抑うつ状態にないかどうか、セルフチェックをする
- 3.10. じぶんの働きをほめましょう
- 4. コロナウイルスやその他の新興感染症の発生時における 患者の心の健康のケア:臨床医向けガイド
- 5. CSTSの日本語情報
コロナウイルスやその他の感染症アウトブレイク中における医療従事者の健康維持
まず、そのまま掲載します。すごくまとまっています。読みやすいです。
ストレスの原因(課題)を列挙する
なぜストレスを感じるのか、原因を列挙します。感染症アウトブレイク中における医療従事者の課題として、以下があります。
1人あたりの仕事量の急激な増加
小規模クリニックでは発熱患者診療不可能なところが非常に多くなり、中規模・大規模病院を受診する発熱患者( 新型コロナウイルス肺炎 患者 を含む)が急増します。
また、 小学校の休校、医療従事者の家族が病気になって家族の世話が必要になったりする人が増えたり、また医療従事者本人も病気になったりすることにより、現場での人手が減ります。
すると、1人当たりの仕事量がどんどん増加していきます。
当直担当の人数が一人減るだけで、例えば4人で当直をまわしていた場合、4日に1回の当直が、3日に1回、さらに1人減れば、、、まあ、無理です。
感染リスクの脅威
自分がいつ新型コロナウイルス肺炎に感染するか分からない怖さ。また、感染してしまった場合、それを家族や友人、同僚にうつしてしまう怖さがあります。
マスクや防護服の不足
ゴーグルをかけると非常に診察がやりづらいです。防護服を着て気管挿管は、想像を絶する動きづらさだと思います。また、サージカルマスク、N95マスク、防護服などの個人用防護具(PPE)が大幅に不足しており、通常では考えられない『マスクを消毒して使いまわし』や、最悪『マスク無しで診療』(100%感染、、、)を強いられる可能性もありえます。
共感疲労や燃え尽き症候群
医師が患者と接するときの態度として『共感的態度』(理解的態度)が大事ですと言われることがよくあります。
しかし、患者さんの 苦しみや悲しみ、不安に共感、感情移入しすぎると、医師、医療従事者が無気力状態に陥ってしまい、『共感疲労』や『燃え尽き症候群』という状態になってしまう危険性があります。
共感疲労とは、トラウマ(心的外傷)を負った人々をケアすることで、ケアをする側が二次的にトラウマを負うことを指します。(参照:優しいあなたこそ要注意!「共感疲労」を溜めない介護職になるために)(参考:共感性疲労と燃え尽き)
燃え尽き症候群(もえつきしょうこうぐん)、バーンアウト(英: Burnout)とは、一定の生き方や関心に対して献身的に努力した人が期待した結果が得られなかった結果感じる徒労感または欲求不満がたまってしまった状態です。
アウトブレイク時の心理的ストレス
上の写真のように、新型コロナウイルス肺炎が蔓延し、病院の廊下は患者で溢れかえり、不安な患者の罵声が飛び交う。患者の治療に十分な時間をかけることもできない。 2019年末に発見されたばかりであるSARS-COV-2, COVID-19についてはわかっていないことが非常に多く、簡便な検査方法も、ワクチンも、治療薬もない。人工呼吸器が足りないため、『命の選択』をせまられる。
このような状況下で、医療従事者は恐怖、悲しみ、喪失、苛立ち、自責感、不眠、極度の疲労といった困難を経験する可能性があります。
課題がある中での、医療従事者の健康維持のための戦略
- 基本的なニーズを満たしましょう
- 休みを取りましょう
- 同僚とつながりましょう
- 建設的にコミュニケーションを取りましょう
- 家族と連絡を取りましょう
- 違いを尊重しましょう
- つねに情報を更新しましょう
- メディアを制限しましょう
- セルフチェックしましょう
- 自分の働きを褒めましょう
よく食べて、よく飲んで、よく寝る
当直もあり毎日同じ時間に食事をすることは難しいとは思いますが、基本的には毎日3食を決まった時間に食べて、水分補給とトイレはしっかりと(忙しいときは難しいですが、それでも、、、)。『よく寝る』とか、当直では不可能ですが、それでも、『横になれるときは眠れなくても暗い部屋で横になる』ことが大事です。
一定時間、仕事から無理やり離れてリラックスする時間を作る
1日中、仕事のことが気になりますが、仕事と関係ないことをして癒やされたり、楽しんだり、リラックスしたりしましょう。散歩、音楽、読書、友人とのおしゃべりをして癒されましょう。
担当患者が何人も亡くなっているとき、亡くなりそうなときに自分が遊ぶなんて『罪悪感』を感じる必要はありません。あなたが心身ともに健康でないと、現場での判断の遅れ、手技のミスにより、あなたの患者が不幸になるリスクがあがります。
10分だけでも、仕事を完全に忘れて、リラックスする時間を作りましょう。
同僚に自分の話を聞いてもらう、同僚の話を自分が聞いてあげる
感染症のアウトブレイクは、恐怖と不安で人々を『孤立』させます。 医療崩壊していなければ、救えた命があったかもしれません。とても現場の外の人には話せないような壮絶な経験もあると思います。壮絶な経験による恐怖と不安は、他の誰かに話を聞いてもらうだけでも、その恐怖や不安は和らぎます。同僚も同様の経験をしているはずです。
同僚と話をして、お互いにサポートし合いましょう。あなたの話をしましょう、そして誰かの話を聞いてあげることによって、あなた本人、同僚の恐怖や不安を和らげましょう。
現場ではポジティブな会話でお互いを褒める、院内での苛立ちやその解決方法を共有する
人は褒められるとうれしいものです。
また、小さなことでも問題点があれば、建設的な言い方で確認し、訂正しましょう。
『△△をするのはやめましょう!』ではなく、『このようなときは、〇〇をしましょう!』と、否定的な言い回しを避けるのも一つの手段だと思います。
あなたの苛立ちやその解決方法を共有しましょう。院内での問題点をカンファ(ビデオ会議でしょうか、、、)で洗い出し、重要なことは上司にもはっきりと伝えましょう。要求が通らないのであれば、休むのも一つの手段です。
あなたが困っていることは、他の人も困っています。あなたが今、一時的に休んで現場の人数が減ることよりも、1か月後、半年後に全員が疲弊して全滅することの方が恐ろしいという考え方もあります。
仕事が忙しくても家族と連絡をとる
電話でも、メールでも、ラインでも、1日に1回、1週間に1回は家族と連絡をとるのがよいのではないでしょうか。
違いを尊重しましょう
今までの解決方法とは矛盾しますが、『つらいときは一人でそっとしておいてほしい』と思う人もいます。そういう同僚や家族がいることを認識し、尊重しましょう。
常に(エビデンスレベルの高い)最新情報に触れて自分の知識を更新する
これは通常時でも当たり前のことですが、疲れ切っていると忘れがちです。WHOや政府があてにならないという困った状況ですが、COVID-19に関する日本語の最新情報は、以下がお勧めでしょうか。
東京都 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)医療関係者向け情報
日本小児科学会 小児の新型コロナウイルス感染症の診療に関連した論文
上記を含め、以下に最新情報を取得する手段についてまとめています。
テレビやSNS(twitter, facebookなど)のメディア閲覧、場合によっては電子メールも制限しましょう
http://www.amagasaki.hyogo.med.or.jp/forciv/1889/
テレビは視聴率を稼ぐために、刺激的な情報や嘘の情報を流すことがあります。
メールやtwitterなどで、『拡散希望』と称して衝撃的な内容を送りつけてくることもあると思います。2020年4月の時点で、何回も文字化けメールや、
『院内の職員は絶対に新型コロナウイルスに感染しないでください』
と、まじめな顔で言っている動画を職員全員に見せつけてきた病院もあるそうです。既にCOVID-19市中感染か広がっているのですから、通勤中にN95マスクをしてゴーグルして手袋をしていなければ、病院職員だろうが上級国民だろうがコロナウイルスには感染してしまいます。それを感染するなとは、、、考えるだけ無駄ですね。
院内メールでさえこの有りさまですから、疲れているときは、テレビニュースを見るのはやめましょう。あなたのストレスを高め、いまの自分の仕事が無意味なものに感じられたり、興奮して休みがとれず、健康を損なう恐れがあります。
自分が抑うつ状態にないかどうか、セルフチェックをする
『抑うつ』や『ストレス障害』の症状が出ていないか、1週間に1回、または1ヶ月に1回、定期的にセルフチェックをしましょう。
自己診断チェックシート SRQ-D(Self-Rating Questionnair For Depression)
例えば、悲しい気分が長く続くこと、不眠、フラッシュバックなど、絶望などがある場合は、同僚や上司に話すか、 必要に応じて専門家に相談してみてください。
相談先ですが、もちろん精神科受診がよいですが、そんな時間がないと感じられたり、最初から精神科受診はハードルが高い場合は、
大きな病院(会社)であれば、職員健康相談室や産業医
職員健康相談室がなければ、各都道府県の精神保健福祉センターに平日昼間ですが電話相談が可能です。東京都であれば、平日9時-17時に『こころの電話相談』(03-3844-2212)に電話相談するのがよいと思います。電話が満杯でつながらなければ、近くの『心療内科』をGoogle検索して、受診してみるのもよいと思います。
じぶんの働きをほめましょう
障害物や失望がありながらも、困っている人のケアをするという立派な仕事をあなたが果たしていることを思い出してください。すべての仕事は、(それが犯罪でなければ、)他の人に感謝されているからこそお金になっているのです。
公式にでも内々にでもよいので、同僚にも同様に伝えましょう。
コロナウイルスやその他の新興感染症の発生時における 患者の心の健康のケア:臨床医向けガイド
CSTSの日本語情報
その他にも、日本語に訳してくださっている情報が更新されています。気軽に読めるので、お勧めです。
https://www.cstsonline.org/covid-19/covid-19-fact-sheets-in-other-languages/japanese
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